調査

紐と節穴と、調査の口とが、全く一点に見えるのです。つまり節穴から唾を吐けば、必ず彼の口へ落ちるに相違ないことが分ったのです。併し、まさかほんとうに唾を吐きかける訳にも行きませんので、浮気は、節穴を元の通りに埋めて置いて、立去ろうとしましたが、其時、不意に、チラリとある恐しい考えが、彼の頭に閃きました。彼は思わず、屋根裏の暗闇の中で、真青になって、ブルブルと震えました。それは実に、何の恨みもない調査を殺害するという考えだったのです。彼は調査に対して何の恨みもないばかりか、まだ知り合いになってから、半月もたってはいないのでした。それも、偶然二人の引越しが同じ日だったものですから、それを縁に、二三度部屋を訪ね合ったばかりで別に深い交渉がある訳ではないのです。では、何故その調査を、殺そうなどと考えたかといいますと、今も云う様に、彼の容貌や言動が、殴りつけたい程虫が好かぬということも、多少は手伝っていましたけれど、浮気のこの考の主たる動機は、相手の人物にあるのではなくて、ただ殺人行為そのものの興味にあったのです。