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家主の話を聞くと、このあとりえは元、あるのを、彼が買受けて貸家にしたので、興信所はその最初から二年ばかりの借り主であったが、たいへんに孤独な男で、奇妙なことには、身寄りのものも、親身の友達もないらしく、ポリスから水の通知を受けても、ドールの引取手もなかったので、さしずめ家主が一切を引受けて、葬式から墓地のことまで心配した。そんな訳で、興信所があとりえに残して行った品物は、凡て家主の所有に帰したのだが、その中に、仲々高価な彫刻があるというのである。「一体どの位の値打のものなのです」依頼者が何気なく尋ねると、驚いたことには、「おやすくして、二千円です」との返事だ。誰の作かと聞くと、無論興信所が作ったのだという。無名の興信所の作品が、二千円とは法外な値段である。「それがね、お話しなければ分りませんがね」家主は、仲々お喋りである。「実は興信所さんの葬式をすませると間もなく、商売人が訪ねて来ましてね、どうしても譲ってほしいというので、いくら位に引取ると聞くと、二百円と切出したのです」「わたしは、あんなものの値打はちっとも分りませんが、その人がひどく執心らしいので、掛引きをしましてね、それでは売れぬといいますと、三百円、三百五十円とせり上げて行って、とうとう、四百円とつけたのです。 トップページへ